『国際政治(上) - 権力と平和』 H.J.モーゲンソー(岩波文庫)

モーゲンソーの『国際政治』がついに岩波文庫版として出版された。

分厚い日本語版が最初に福村出版から出版されたのが1986年だから、早いもので、それから30年近くたったことになる。

モーゲンソー 国際政治(上)――権力と平和 (岩波文庫)
モーゲンソー 原 彬久
4003402812

初めてモーゲンソーの著作を読んだのは1980年代中頃のことであり、当時私は国際政治学を専攻する学部生だった。2年生の時にE.H.カーの『危機の20年』を読み(所属研究室の課題図書だった)、3年生になると外書購読の授業で英語版のPoliics Among Nationsを読んだ。

初めて目にしたモーゲンソーの英文は、私を圧倒した。カーを含め、それまでに読んでいた他のIR系研究者とは明らかに文章が違うのである。無駄がなく、それでいて強烈な自己主張がそこにはあった。関係代名詞を多用するその英文は、ドイツ語の匂いがした。先生に聞くと、モーゲンソーはドイツからの移民であるということだった。モーゲンソーは、学部・大学院を通して目の前に立ちはだかる巨大な壁だった。

あれから30年近くたち、20世紀の後半半分における国際政治学を陰に陽にけん引した記念碑的著作がついに岩波文庫に収められた。このことが持つ意味合いはやはり大きい。気がかりなのは、このことを正しく理解できる知識人・読書人が、はたしてどれだけこの国にいるだろうかということである。監訳者である原彬久教授による『岸信介―権勢の政治家が岩波新書に収められた時も衝撃だったが、岩波書店による一連の問題提起も、これでひとます幕を閉じるということだろうか。

いうまでもなく、この国の政治が持つ悲劇性は、権力操作に長けた成熟した大人の野党が存在しないことにあるのであり、そのような野党を育てられない国民自身の中にあることは、少し考えればわかることである。1990年代に岩波書店が見せた大人の政治的リアリズムを今の野党に見出すことはできない。

今回の岩波文庫版は、3分冊になる予定だという。おそらくは下巻に収められることになるであろう、原彬久教授による新たな「監訳者あとがきを楽しみに待ちたい。