『国際秩序』細谷雄一(中公新書)

「18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ」という副題に、この本のテーマがすべて凝縮されている。

生半可な知識や理論構成では、300年以上にわたる国際政治の変遷を新書という限られたスペースに収めることはできない。しっかりした分析枠組みや論理が求められるきわめて難易度の高い仕事である。「均衡の体系」をはじめ、鍵となる主要な概念を明示的に示し、国際秩序を「面」として捉えることの重要性を最初に提示するなど、本書には、読者が広大な国際政治史の変容を少しでもスムーズに辿ることができるよう、細かな配慮がなされている。


国際秩序 - 18世紀ヨーロッパから21世紀アジアへ (中公新書)
細谷 雄一
4121021908

今日の読者の目には、冒頭の坂本義和と高坂正堯の論争は新鮮に映るかもしれない。著者は、わざわざこの論争を「忘れてはならない論争」であると強調する。なぜか。それは著者によれば、両者共に、ウィーン体制時代のヨーロッパ国際政治を国際政治学者としての研究の出発点としていたからであり、それにもかかわらず、両者間には特に勢力均衡の評価において根本的な認識の違いが見られるからである。著者にしてみれば、「この時代につくられた国際秩序の原理が、さまざまなかたちで現代に影響を与えている」のであり、この議論をあえて今日の時代に提示することは、国際政治が単なるニュース以上のものとして見られることが稀なこの国において、重要なことなのである。

このように、坂本義和と高坂正堯の論争から出発する本書は、近代ヨーロッパの国際秩序から20世紀の世界戦争の時代を経て、最後はグローバル時代の国際秩序へと議論が進む。冷戦から新世界秩序を経て、21世紀は太平洋の世紀になるというのである。著者によれば、21世紀の東アジアでまず求められるのは、本書のキーワードの一つである「均衡の体系」を回復することであるという。なぜなら著者は、20世紀後半の国際秩序とは異なり、21世紀初頭における環太平洋の国際秩序は、不安定な勢力均衡その他によって彩られていると見ており、「そのような状況においては、「均衡の体系」を回復して、それを基礎として大国間協調や、「東アジア共同体」の構築が可能となると考えているからである。まずは、東アジアで勢力均衡を回復せねばならない」のであり、「平和を永続させるための「協調の体系」や「共同体の体系」を確立するためには、「均衡の体系」を否定するのではなくむしろそれを基礎に置くことが重要となる」のである。

国際秩序は大きく変容しつつあり、この巨大な変化を見逃してはならないと著者は言う。「協調の体系」や「共同体の体系」がはたしてこの東アジアにおいても構築されることになるのか、それとも、ヨーロッパとは異なる新しい国際秩序の体系が出現するのか。ここで読者は、冒頭の坂本義和と高坂正堯の論争に立ち帰ることになるだろう。本書は、東アジアの国際秩序を考察する上で大きな示唆を与えてくれる。