The Hawk and the Dove: Paul Nitze, George Kennan, and the History of the Cold War

Paul NitzeといえばNSC68やGaither Reportの起草者として米国では有名だが、日本で彼の名を知る人はおそらく少ないだろう。SAISでも、創立者であるNitzeについて詳しく知っていたり、興味を持つ学生はあまりいなかったように思う。

一方のGeorge KennanはX論文の起草者として日本でも有名であり、国際関係専攻の学生なら何冊か彼の本を読んでいると思われる。

The Hawk and the Dove: Paul Nitze, George Kennan, and the History of the Cold War
Nicholas Thompson
0312658869

一般には、ケナンがPolicy Planning Staffの座を追われ、ニッツェがその後任となったことから、二人の関係はあまり良くなかったのではないかと思われがちなのだが、実はプライベートでは極めて親密な関係にあったのであり、このことは、ケナンの80歳の誕生日にニッツェが駆けつける冒頭のエピソードからも伝わってくる。

ニッツェは核を中心とする軍備管理の専門家であり、核抑止理論を捨て去ることはなかった。
一方のケナンは核抑止理論に基づいて国際関係を分析すること自体ナンセンスだと考えていた。
それにしても、国際関係に対する基本的なスタンスが大きく異なる二人が、生涯にわたり互いを尊敬し合うことができたのはなぜだろうか。
著者は、時の政治権力や周囲の人間たちと二人の関係を丹念にたどることでそれを解明しようと試みる。ニッツェもケナンも共に、知識人として日の当たる場所を歩くこともあれば、忸怩たる思いで浪人時代を過ごすこともあった。

そこから見えてくるのは、「国家」の安全保障に携わる知識人の宿命として、政策決定者の一員であるはずの自らがそのような「国家」の拘束を大きく受けるという構図であり、そのような「国家」の前では、時には無力ですらあったということである。

もしかすると、若い時に知り合った二人は、「国家」の政策決定にかかわる中で、互いの中に「自己」を見出していたのかもしれない。

当然ながら、外交の世界はきれいごとだけでは済まない領域である。本書では、1930年代にケナンが関わった諜報活動についても述べられており、日本ではあまり知られていないインテリジェンス・オフィサー、ケナンについても知ることができる。これは日本の読者に対して新たな視野を提供してくれるかもしれない。

著者であるThompsonはニッツェの孫にあたる人物だが、特にニッツェに肩入れすることなく、そのスタンスは極めて中立的である。冷戦時代の人物について書かれた本は多いが、本書はケナンとニッツェの人物像を生き生きと描きながら、同時にアメリカ外交、特に核を中心とする安全保障政策についてもその流れを辿ることができることから、国際関係や公共政策系の学生にとって楽しく読める内容となっている。